第一章 暴かれる真実

眠れる神を屠りしもの 1

【1】
 小さく吐息をついて、クライは自分のために用意された室内を見回した。
 そこは、王城内の一番奥まった位置にある、国王の居住地域の中にある一画だった。広々とした居間を中心に、寝室が二つと小さな厨房、それにバス・トイレを完備した立派なもので、しかも入り口から居間に至るまでの間には、小さなエントランスまでついている。
 もちろん、どの部屋も調度は洗練されていて、上品で居心地良く整えられていた。
 その豪華なしつらえに、クライはいささか面映いものを感じてしまう。
 とはいえ、今の彼は国王の客人という扱いなのだろうから、しかたがないといえば言えた。
 それに、相手に他意のないことも、理解してはいる。
 むしろそれは、彼自身の問題だ。
 彼は五ヶ月前にも、この城の中に部屋を与えられて住んでいた。
 その時の部屋は、ここほど洗練されてはいなかったけれど、それでも間取りは似たようなもので、ウリエルのための寝室もきちんと用意され、至れりつくせりではあった。
 同じ城内で、似たような待遇をされて、しかもそんなふうにもてなしている相手は敵同士だったのだから、彼としては今一つおちつかないのも、しかたがなかっただろう。
 もっとも、おちつかない理由は、もう一つあったけれど。
 軽くドアがノックされて、返事も待たずに中に入って来たのは、そのもう一つの理由であるラフティだった。
「こちらも、同じ作りなんですね」
 居間を見回して、ラフティはのほほんとした口調で言う。
 ちなみに、彼の部屋はこの部屋の向かいだった。
 マニは聞かれもしないことをあれこれしゃべる性質ではないので、ラザレスはラフティが最初に紹介したとおり、二人を友人同士だと思っているのだろう。それに、不案内な城の中では、近い位置に部屋がある方が彼らが安心するだろうとも考えて、二人の部屋を近い位置に割り振ったに違いない。
「そっちも、こんな感じなのか」
 ラフティの言葉に、クライも返した。
「ええ。《天使》にまで配慮してくれるなんて、ありがたいことですよ」
 うなずいて、ラフティは笑う。
「雇われていた時も思いましたが、彼はあれで意外と気の回るタイプですよ」
「ふうん」
 曖昧に相槌を打って、クライはソファの一つに腰を下ろした。
「それにしても、本当にマニが生きていたとはな。……もっとも、俺はもう長くマニとは会っていなくて、死んだってのも話に聞いただけだったからな。どっちにしても、今一つ実感がなかったんだが」
 幾分、溜息をつくように言う。
「私も、前の時には、カイエたちから話を聞いただけでしたからね。やはり、実際に顔を合わせると、驚きますよ」
 ラフティも言って、彼の向かいに腰を下ろす。
 そんな二人を見やってウリエルは、「お茶でも入れます」と言い置いて、厨房の方へと立ち去って行った。
 二人きりになって、クライは少しだけおちつかなげに身じろぎする。
「それにしても、グラディアス殿がアニエス商会の人々に接触を持っていたとはねぇ。……あの時の言葉に嘘があるとは思いませんでしたが……思いきったことをしたものです」
 それを見やってラフティは、少しだけ感慨深げに言った。その言葉は幾分、呟きのようでもある。
「あの時の言葉?」
 クライが、怪訝な顔で問い返した。
 それへラフティは、小さく笑って答える。
「あなたが逃亡したのを追うために、塔へ呼び戻された時に、グラディアス殿とマニ殿のことについて、話す機会があったのですよ。その時に、彼は言っていたのです。ラボとアニエス商会の研究室が互いの情報を開示しあうことができれば、もしかしたら《天使》たちを自由にしてやることも、できるかもしれないと」
「グラディアスが、そんなことを……」
 クライはわずかに目を見張り、それから小さく吐息をついた。
「そういえば、俺と話した時にも、双方の研究結果を開示しあうことができればいいのに、とは言っていたな。ジブリールの身に起きたことが、彼女だけの特別なことで、他の《天使》には起きないとはっきりわかるならば、というようなことを」
「気持ちはわからなくもありませんね。……自分の死後に、もし自分の《天使》が彼女のようになってしまうとしたら、それはやはり辛いですからね。もっとも、アズラエルを狂わせることができるのは、私よりもイーヴァの死の方でしょうけれど」
 ラフティは言って、薄く笑うと問う。
「もしかして、グラディアス殿の新しい恋の相手というのは、ガブリエルなのですか?」
「そうだが……」
 言いかけて、クライは軽く眉をしかめた。「新しい恋」という言い方が、引っかかったのだ。
「おまえ……」
「グラディアス殿と塔で最後に話した時、長年あなたに恋をしていたが、新しい恋に目覚めたということを、告白されましたのでね」
 思わず問いかけるクライに、ラフティは少しだけ意地悪く告げる。
「案外、そんなことではないかと想像はしていましたけれども。……まあでも、塔を出る前に全てが氷解して、私としてはすっきりしましたよ」
「おまえら、人のいない間に、どんな話をしてたんだ。まったく……」
 クライは思わずそっぽを向いてぼやいた。グラディアスに対しては、もちろんクライはずっと友情しか抱いて来なかったのは本当だ。それでも、ラフティの前でそんな話をするのは、なんとも居心地が悪い。
 そこへクライにとってはありがたいことに、厨房に引っ込んでいたウリエルが、二人のためのお茶を持って居間に姿を現した。
「ここの厨房は、素晴らしいです。イール茶の茶葉も、カーヴァーの豆も、さまざまな種類のものがそろっていました」
 彼にはめずらしく、少しだけ興奮した口調で言って、二人の前にイール茶のカップをそれぞれ置く。
「今は、こちらの方がいいと思ったので。どうぞ」
「ほう。……いい香りだ」
 クライはかなりホッとしながら、目の前に置かれたカップを見やり、立ち上る香りに目を細めた。
「本当ですね」
 ラフティも、今の話題をそれほど引きずる気はなかったのか、あっさりとうなずいてカップを手にする。その中身を、ゆっくりと味わうように半分ほど飲んで、彼は小さく吐息をついた。
「これはなかなか、いい茶葉を使っていますね。さすがは、アニエスの王城内に置かれているものだ、と言うべきですか」
「でしょう? 私も、お茶の入れ甲斐があります」
 ウリエルが、楽しげに言ってうなずく。
 そんな彼の姿に小さく苦笑して、ラフティはカップを置いた。改めて、クライを見やる。
「ともあれ、グラディアス殿の助言を得て、カタリ湖の底に眠るジブリールから採取したデータで、アニエス商会の人々が何を見つけ出すかは、興味深いところですね」
「だが、得られるデータ自体はラボにあるものと、同じじゃないのか?」
 クライがわずかに眉をひそめて問うた。
「おそらくそうでしょう。ただ、そこから導き出すもの、得られるものは、ライラたちと彼らとでは違うかもしれません。きっと、グラディアス殿もそう思ったからこそ、ジブリールからデータを採取するようにと提案したのでしょう」
 ラフティは言って、再びイール茶のカップを手にする。
 が、クライの方はどことなく、曖昧な顔でうなずいただけだ。そして、話題を変える。
「ところで、マニとあの新王の協力を取り付けたのはいいが、これから具体的にはどうするんだ?」
「しばらくは、様子見と言ったところですね。ライリアの滅亡で、他の国々がどう動くのかも、今はまだはっきりとはわかりませんからね。それに、フラナガンにいるというライリアの首相たちについても同じです。もちろん、各国に散った国民へのさまざまな保証と、滅亡に関する説明はあってしかるべきですが……それも、どんなふうに説明するのかによって、ずいぶんと立場が違って来るように、私には思えますよ」
 問われてラフティは、少しだけ考え込みながら言った。そして、再び手にしたカップに口をつける。
 それを見やってクライは、わずかに眉間にしわを寄せた。

 その同じころ。
 ラザレスは自分の執務室に戻り、そこのコンピューター端末機から、ネットの通信回線を使って、ルゾ・アニエスにクライとラフティの来訪と、その目的を話し終え、通信を切断したところだった。続けて今度は、伯母でもあるフラナガンの国主にしてルーフの教母、ラナ・アニエスに連絡を取る。
 端末機のモニター画面に映るラナは、五十歳前後の金髪と緑の目をした、優しげな女性だった。長く伸ばした髪はきっちりとまとめて結い上げている。質素な装いだったが、そのたたずまいには気品があって、何も言われなくとも、彼女がなんらかの地位のある人物であることは、誰にも一目で察せられただろう。
 その面差しは、どことなくラザレス自身に似通っている。
「忙しいところを、すみません。伯母上」
 画面の向こうの伯母に、ラザレスはまず詫びた。
 フラナガンには、ライリアの政府首脳陣とその家族が移住している。
 アニエスもライリアの国民を受け入れてはいるが、そちらはごく一般の人々で、最終便が到着したのは昨日の夜遅くのことだったが、対応は外務省の者とライリア大使が行っていた。
 対して、フラナガンが受け入れたのは国の重鎮ばかりの上に、到着は今朝早くだったはずだ。国主であるラナは、むろんのこと出迎えのために早朝から起きていたに違いない。それに、彼らが到着した後も、ライリア首相との会談や、他の者たちへの気遣いなど、多忙を極めていたに違いないと想像されたためだ。
 そんな彼に、ラナはやわらかく微笑み返して言った。
『大丈夫ですよ。それに、あなたが連絡して来るということは、何かあったのでしょう?』
「はい。実は……」
 うなずくとラザレスは、クライとラフティが《天使》たちと共に自分を――というか、正確にはマニを訪ねて来たことと、彼らの話の内容を告げた。
『……そうでしたか』
 話を聞き終えると、彼女は深い溜息をついて呟く。
「伯母上は、驚かないのですね」
 ラザレスは、軽く眉根を寄せて問い返した。
「まさか、ライリアの首相から、同じ話を……?」
『ええ。……正確には、ライリア首相ランドルフ殿が、ネイジア殿から託されたUSBメモリーの中にあったメッセージで知ったのですけれどもね』
 うなずいて言うと、ラナは続けた。
『メッセージの中で彼女は、あなたがクライ殿やラフティ殿から聞いたのと同じ話――彼女と《至高天》の方々が、他の星からやって来て、この星を今あるように造ったこと、そしてその本当の目的はライラ殿と彼女が操るヘル・アンゲラなる兵器を更に強くするためであったこと、それを知っているのはネイジア殿だけだったことを告白していました。……その上で、もしもラフティ殿がライラ殿を止めようと動くことがあれば、私に協力してほしいとも』
「……では、ネイジア殿は彼らが、自分の言葉を受け入れて動くだろうことを……」
 ラザレスは、わずかに目を見張って呟く。
『ええ。ちゃんと見越していたのでしょう。……賢い方です』
 ラナはうなずくと、小さく吐息をついた。
『もちろん、それについては私も協力しないわけにはいかないでしょう。……この世界の命運がかかっているのだなどと言われれば。ただ……問題は、それだけではないのです』
「どういうことですか?」
 ラザレスが、怪訝な顔になる。
 それへ彼女は厳しい顔になって、問うた。
『今、世界各地で、妖魔の血を持たない人間の妖魔化や、悪霊に襲われてもいないのに悪霊化する死者たちがいることを、それが増加していることを、あなたは知っていて?』
「はい。……アニエスでは、それほど多くありませんが、世界規模で見るとかなりの数に昇っているらしいことは、ルゾ・アニエスから聞いています。それに、他の国から来たルーフ信者や尼僧らからも、妖魔化した人間を見たり、悪霊化した死者の出た村に火をかけたという話を聞いたと、聞かされています」
 軽く顔をしかめながらも、ラザレスが答える。
 クラリスやライリアで問題になっていた、妖魔化・悪霊化については、ラザレスが王となってからはアニエス国内でもひそかに調査が行われていた。今ラザレスも口にしたとおり、それはアニエス国内ではさほど多くはなく、だからこそロドニウス政権時代には、まったく問題視されていないどころか、誰もそんなことが起こっているなどとは、知らない話だったのである。
 とはいえ、他国でもこの問題をきっちり把握しているところは少なかったかもしれない。
 ラザレスやラナらは知らないことだったが、クラリスでさえ皇帝が把握している件数と、実際の妖魔化・悪霊化の件数には大きな開きがあった。
 それを問題として把握し、対処方法を試行錯誤していたのは、もしかしたらライリアぐらいのものだったのかもしれない。
 ともあれ。
 ラザレスの答えに、ラナはうなずいた。
『ええ。世界中で、徐々に大きな騒ぎとなり、誰もが怯えおののき始めている事象です。ネイジア殿のメッセージは、その件にも触れていたのですが――彼女はそれが、全て「月の民」の遺伝子と、この星を包む電磁波のせいだと言うのです』
「どういうことですか?」
 ラザレスは、再び怪訝な顔になる。遺伝子だとか、電磁波だとか言われても、今一つピンと来ないのだ。
『ネイジア殿のメッセージと、そしてテレンス・リリシアが知った「本当の歴史」によれば、私たちが「月の民」とか「神の民」と呼んでいる種族は、《至高天》の者たちやネイジア殿と同じ星からやって来た人々の遺伝子を、元にしているのだそうです』
 それへラナは、言葉を選びながら、噛み砕くようにして語る。
 「月の民」こそが、異星人――タナトスから訪れた人々の遺伝子に、この星の環境に適応できるよう手を加えて作られた種族であったこと。また、この星の周囲は特殊な電磁波によって包まれており、それが異星から訪れた人々の肉体を内側から朽ちさせる要因ともなっていることを。
『――そのために、《至高天》の者たちは、生身の体を失い、今では元の肉体そっくりのナノマシンに意識を移し変えて生き続けているのだそうです』
 ラナの説明に、ようやくラザレスも少しは事態を把握したようだった。が、まだ腑に落ちない顔で問いを紡ぐ。
「しかし、『月の民』もまた、その電磁波の影響を受けないように、手を加えられていたのなら、なぜまた今頃そんなことに? しかも、最初に人類が作られてからすでに長い時が流れている。種族間の混血も進み、純粋な『月の民』なんてものは、ほぼ存在しないのではないんですか?」
『私も、そんなふうに思いました。しかしネイジア殿はメッセージの中で、電磁波の影響は長い時を経たからこそ、出て来たものだと言っているのです。短期間であればそうとわからなくとも、代を経るごとにその影響によって変質し、あるいは脆弱になった遺伝子が、今になってこんな形で表に出て来たのだと』
 ラナは言って、小さく吐息をついた。
『ライリアでは、ゲートジェネレーターと同じ原理の小型の装置を開発し、それを体に装着して個人用のバリヤーを張ることで、電磁波からの影響を極力避けることに成功していたそうです。ただそれも、変質を遅らせる程度の効果しかないのだとか。……どちらにしてもこれは、どうするすべもない事象なのだそうです』
「ですが、我が国のように、実際にほとんど妖魔化の起こっていない国もあります。つまり、『月の民』の遺伝子が含まれる量の少ない種族は、問題がないということなのでは?」
 ラザレスは、途方にくれる思いに駆られながらも、訊いてみる。種族間の混血が進んでいるとはいっても、「月の民」とのそれは地域によって、大きな隔たりがあるのも事実なのだ。
『それについては、私もそのように思います。ただ、国や地域、都市といった単位で見れば、「月の民」の遺伝子を持つ者が皆無の場所というのは、あり得ません。多いか少ないかだけの問題です。となれば、その事象は人々の間に不安と恐慌を呼ぶことは、間違いありません』
 ラナはうなずきつつも、厳しい顔つきを崩さないまま返した。
「それは……そうですね……」
 ラザレスも、伯母の指摘に眉をしかめてうなずく。
 たしかにそうなのだ。たとえ数は少なくとも、妖魔化する人間が皆無でないならば、国民が不安を感じるだろうことに変わりはない。
『それにもう一つ、アニエスの場合には、危惧すべき事柄があります』
 そんな彼に、ラナは低い声で少しだけためらうように付け加えた。
「なんですか? それは」
『アニエス王家の者には、「月の民」の遺伝子が混ざっているかもしれないということです』
「な……!」
 言われてラザレスは、思わず目を剥く。低い声を上げたものの、続く言葉は口から出て来ない。
 それへ彼女は続けた。
『上王の両親は、クラリスの生まれです。……たしかに、上王自身は《天使》の主となることで、遺伝子が変質しています。それに、上王をはじめとして、アニエス国王の妃には砂漠の民の娘も多い。ただ……王家に生まれた者の多くは、白い肌と金の髪、緑の目を持っています。これは当然ながら、上王の遺伝子を受け継いでいるためでしょう。とすれば――』
「『月の民』の遺伝子が混ざっている確率も高い、ということですか」
 ラザレスは、改めて伯母の言わんとしていることを理解し、うめくように返す。そして、小さく唇を噛みしめた。
 現在、アニエス王家の直系と言えるのは、彼自身とラナ、そして彼女の元にいるラザレスの双子の妹カリンカの三人だけだ。
 ロドニウスは、彼の父から政権を奪った後、本来の王家の者をことごとく根絶やしにしてしまった。王家の血の入った者は、臣籍に下がった人間はもちろんのこと、ごく身分の低い母から生まれて一般の民としてくらしている、普通ならば誰も王族とは呼ばないような人間まで、全て探し出してなんらかの罪に問うたり、あるいは毒を盛ったりして殺害してしまったのだ。
 それはむろん、万が一にもそうした者の誰かを祭り上げて、自分の政権を脅かす者が出るかもしれないと考えたための政策だった。
 つまり、現在残っている彼ら三人こそが、アニエス王家の全員であり、民たちの希望であるとも言えた。
 そんな彼ら三人が、もしも妖魔化するなどということになれば、それこそアニエスもフラナガンも――いや、世界中にいるルーフの信者らが不安と恐怖におののき、恐慌状態に陥るに違いない。
『……私も、今はまだ完全にメッセージ映像を見た混乱から、立ち直っているわけではありません』
 そんな彼に、ラナはどこか呟くように言った。
『ただ、このまま手をこまねいているわけにはいかないとは、考えています。……先程、ルゾにも連絡を入れて、今夜会う約束になっています。彼と話して、できればアニエス商会の研究室で何かワクチンのようなものの開発に取り組んでもらえればと、考えているのです』
「ワクチンですか……」
 ラザレスは、たとえ開発に取り組んだとしても、そう簡単に作れるものではないだろうと、いささか暗い気持ちになりながら返す。
 そしてふと、ラフティたちはこの世界中で起きている妖魔化・悪霊化の問題と、それがなぜ起きるのかを知っているのだろうかと思う。
(一度、この件についてあの二人に聞いてみないといけないな)
 胸に呟き、彼はそろそろ伯母との通信を終わらせる頃合だと考える。
 その時だった。ラナが少しだけためらうように、告げたのだ。
『それともう一つ……。これは、どうすべきか考えあぐねているのですが……ネイジア殿は、メッセージの中で全てを私に託すと言っているのです。つまり、この恐ろしい事実を公表するも伏せるも、私の意志に委ねると。また、ランドルフ殿もそのネイジア殿の残した言葉に従うと――つまり、私がどちらを選ぼうとも、それに不服は唱えないと言っているのです』
「この問題って、今話して下さった、妖魔化・悪霊化についてですか?」
 ラザレスは、思わず問い返す。
 画面の向こうで彼女は、黙ってうなずいた。