序章 砂漠の邂逅

眠れる神を屠りしもの 1


 白い石で組まれたアーチ型の天井を持つ回廊には壁がなく、天井を支える円柱と円柱の間はかなりの広さがあって、そこを歩きながら周囲に広がる庭園の眺めを楽しめるようになっていた。
 庭園には緑の木々が生い茂り、噴水や小さな池が作られ、色鮮やかな蝶や鳥たちが飛び交っている。それは、見る者の目と心を和ませるには充分なものだったが、同時にそこが砂漠に造られた街の中なのだということを思えば、誰もが驚かずにはいられなかっただろう。
 今、その回廊を四人の男が大股に歩いて行く。
 彼らの先には、案内役らしい小姓が一人。
 男たちのうち、三人は三十前後と見えた。
 一人は長身で、日に焼けた肌と長い黒髪、紫暗の瞳を持っている。黒いプロテクトスーツに身を包み、その上からでもわかる鞭のようにしなやかで、鋼のように鍛えられた体格をしていた。
 もう一人は、彼と同じぐらいの背丈で、どことなく雰囲気も似通っている。漆黒の肌と長い黒髪を持ち、エキゾチックな彫りの深い顔立ちだった。ただし、その目は人間にはあり得ない、瞳も虹彩もない金属的な銀色をしている。
 そう、この男は《天使》なのだった。
 三人目の男は最初の二人よりは背が低く、ほっそりした印象がある。長く伸ばした金髪は、後ろで一つに束ねて編んでおり、肌は白く、その目は澄んだ空のように青かった。
 その男にも、どこか影のようにつき従う《天使》がいる。
 こちらは一見すると二十代半ばと見えた。長身で、銀灰色の直ぐな髪を長く伸ばし、体には白っぽい灰色のプロテクトスーツをまとっている。その目はやはり、《天使》に特有の銀色だ。
 男たちは、言わずと知れたクライ、ウリエル、ラフティ、アズラエルの四人である。
 彼らは、先程から言葉を交わすこともせず、ただ黙って小姓の後について足を運んでいた。
 もっとも、この回廊に最初に足を踏み入れた時には、さすがにラフティとアズラエルは目を丸くしたものだ。殊にラフティは、興味深げにあたりを見回し、言ったものだった。
「緑や水は、砂漠ではとても貴重なもののはずですが……それがこれほどふんだんにあるとは、この国は思った以上に豊かなところなのですね」
「ああ。……だからこそ、この国の政権を奪おうと考えるような奴も、出て来るのだろうさ」
 それへそんなふうに答えたのは、クライだった。
 その彼の口調は、どことなく皮肉げだったが、それも無理はなかったかもしれない。ほんの五ヶ月ほど前に彼は、そのこの国の政権を奪って世界に覇を唱えようとした男を暗殺するために、ここにいたのだから。
 そう。彼らが今いるのは、ほかでもないアニエスの都ニエベスの中心に建つ、王城なのだ。
 ライリアが完全に海に沈むのを見届けた後、彼らはフラナガンではなく、この国を目指した。
 《天使》ケルピムの中に、データとして生きているマニと会うためだった。
 ラフティは、ライリアの女王ネイジアの望みどおり、ライラの復讐を止めるつもりなのだった。だが、彼女は一筋縄で行く相手ではない。そこで、マニに会って全てを話し、協力を得ようと考えたのだ。
 途中、万が一にもその電波をたどって、ライラたちに行き先が知れてはならないとの懸念から、《神の塔》で与えられた携帯通信端末機を捨て、更に多少迂回するコースをたどって彼らはそこを目指した。
 それからほぼ一日半が過ぎた、九の月二十日の昼近く、彼らはアニエスの都ニエベスへとたどり着いた。
 その彼らが面会を申し入れたのは、新王ラザレスである。
 マニが生きていることを知っているのは、アニエス商会の研究にたずさわるごく少数の者たちと、今はケルピムの主となったアニエスの新王ラザレスのみなのだ。
 本来ならば、異国人であるクライとラフティが会うことは、難しい人物である。が、幸いにしてラフティはラザレスと面識があった。しかも、六の月に即位したばかりのラザレスは、できるだけ直に国民の声を聞きたいと、一日に数人ではあったが、身分に関わらず民と会見してその話を聞く機会を設けていた。
 おかげで、いまやなんの地位もなく、祖国すら失ってしまったラフティの申し入れは門前払いに会うことなく、受付られて、ラザレスの耳に入ることとなった。
 ラザレスの方ではむろん、彼のことはかつての協力者の一人と思っているので、すぐさま会おうという話になった。それで今、彼らはこうして王城内の回廊をたどって、ラザレスの待つ部屋へと向かっている途中なのだ。
 回廊を、ただ黙って歩いて行きながら、クライはここに足を踏み入れた時の会話を思い出し、ふと皮肉な思いに捕らわれた。
 五ヶ月前、この城の主だったのは、ロドニウス・バルバサという力だけが全てだと信じる男だった。
 そしてクライは、その男を暗殺するためにしばらくの間、彼らの味方のふりをしてこの城に滞在していたのだ。
(そう。あの時、俺は自分の任務を果たした。だが、それが結果的に今の王であるラザレスには、幸いしたというわけだな。そして、だからこそ俺たちは、この国に自分たちの活路を見出すこともできた)
 胸に呟き、彼は思わず小さく口元をゆがめる。
 その任務自体は、ライラに命じられてのものだった。
 ロドニウスは、あろうことかライラを脅迫し、その逆鱗に触れたのだ。
 だがあのころ、クライにしてもまさか、自分のその任務がこんな形で返って来ることになるとは、思いもしなかった。
(何がどうころがるか、運命というのはわからないものだな)
 再び皮肉な気持ちで、彼は胸に呟く。
 やがて回廊は終わりを告げ、彼らは建物の中へと入った。最初に現れたのは、広々とした吹き抜けの天井を持つエントランスだった。四方には、いくつかの扉と、廊下への入り口が見えている。
 案内の小姓は、一番奥の右手の扉に向かって歩いて行くと、軽くノックして客人を連れて来たことを告げた。中からはかすかな応えが返り、小姓はクライたちをふり返ると、入るようにと示す。
 クライとラフティは、思わず顔を見合わせた。が、すぐにラフティの方が先に立って扉に歩み寄ると、手をかける。扉は難なく開き、ラフティは中へと足を踏み入れた。クライとウリエル、アズラエルの三人も後に続く。
 そんな彼らを、小姓が恭しく頭を下げて見送った。
 中は、それほど広くはなく、応接室か小さな謁見の間といったふうだろうか。
 奥には、籐で編まれたソファが据えられ、その上には鮮やかな緑色に金糸で縫い取りのあるクッションが置かれていた。その前には背の低いテーブルが据えられ、そこに置かれた香炉からは、やわらかな香りを放つ煙が立ち昇っている。
 ソファには、青年が一人座していた。
 明るい金色の髪は短く整えられ、長身の体には布をたっぷり使って足首でたるませた白いズボンと、長袖のシャツをまとい、その上から緑色の短い袖なしを羽織っている。袖なしには金糸で細かい唐草模様が縫い取りされていて、艶やかな雰囲気だ。
 クライたちがアニエスに来て出会う人のほとんどは、褐色の肌をしていた。
 だが、青年は白い肌をしており、その目も鮮やかな緑色だった。
 ただ、他の者たちと変わらないのは、額に印された赤い六芒星の刺青――「ルーフの印」である。
 青年は、ラフティとアズラエルの姿を見ると、大きく破顔した。
「ラフティ、アズラエル。あんたたちと、またこうして会える日が来るとは、思わなかったよ」
 言って彼は、どこか懐かしげな目をする。
 この青年こそが、このアニエスの新王ラザレスだった。
 クライは、初めて対峙するその人物に、思わず小さく目を見張る。というのも、ラザレスの面差しは、彼の記憶にあるマニ・アニエスによく似ていたからだ。
「そう言っていただけて、私もうれしいですよ。国王陛下」
 ラフティが、うやうやしく返すと、ラザレスは苦笑と共に言った。
「よせよ。あんたにまで、そんな他人行儀な呼ばれ方をされたくないぜ。以前と同じく、名前で呼んでくれ。……それで? 今日はどうしたんだ?」
「あなたがそう言うならば、以前と同じように、呼ばせていただきますよ」
 ラフティも苦笑と共に言って、続ける。
「実は私たち、マニ殿に会いたくてここを訪ねて来たのです。……こちらは、私の友人のクライ・カシアスとその《天使》のウリエルです。事情を話すと、長くなりますが――」
「かまわんさ。聞こう」
 紹介されて、クライとウリエルの二人と軽く挨拶を交わした後、ラザレスはうなずいた。
「わかりました。それでは――」
 言ってラフティは、いったいどこから話したものかと少しだけ逡巡した後、まずは自分がライリアからの人質としてエテメナンキの《神の塔》で三百年間、《至高天》第四位としてあったことを簡単に告げた。それから、今回のライリア滅亡とその際に女王ネイジアから聞かされた話を、かいつまんで話す。
 ラザレスは、時おり小さく息を飲みながらも、黙って彼の話を聞いていた。が、やがて彼が全て話し終えると、深い溜息をつく。
「……つまり、あのテレンスとかいう少年がフラナガンから出した声明は全て本当のことで、その上、《至高天》筆頭のライラって女もまた、自分の祖国に騙されて操られていたってことなのか。そして、その女が祖国に復讐するのを止めないと、この世界そのものが危険なことになる……と?」
「ええ、そういうことです」
 念を押すように言うラザレスに、ラフティはうなずいた。
「今のところ、この話を知っているのは、私たち四人だけです。ですが、私たちだけでは何もできません。それで、マニ殿に協力を乞いに、こここに来たというわけです」
「なるほどな。……わかった。ちょっと待ってくれ」
 言って、ラザレスは小姓を呼ぶと、ケルピムにこの部屋まで来てくれるように伝えるよう命じる。
 小姓が出て行くと、彼はラフティたちをふり返って、小さく苦笑した。
「ケルピムを呼ぶのは簡単なんだが、王という立場上、形式的にやらざるを得ないんだ」
 《天使》とその主は、精神の一部がつながっている。なので、離れた場所にいても、その気になれば心で会話することができるので、本来は今のように人を介して《天使》を呼びつける必要などないのだ。
 しかし、それをやると周囲の者たちが驚くだけでなく、ケルピムの行動そのものにも支障が出る。たとえば、この部屋に来ようとして、途中で小姓などに「王は来客中だ」と呼び止められて押し問答になる、などということがあるのだ。
 なのでラザレスは、よほどの緊急事態を除いては、多少面倒でも人を介してケルピムを呼ぶようになったのである。
 ややあって、ケルピムが小姓に案内されて部屋に姿を現した。
 ケルピムは、長身で大柄の二十代半ばの青年の姿をしていた。金褐色の髪を長く背に伸ばし、白い肌と《天使》に特有の金属的な銀色の目をしている。
「あんた……ラフティ・クワイアスか……」
 ラフティを見るなり、ケルピムは軽く目を見張って呟いた。
 ちなみにラフティは、ラザレスの戴冠式の日、このニエベスには来たものの、式そのものには出席していない。
 ラザレスと行動を共にしていた時には、彼に雇われた傭兵という身分でもあったし、何より本当は何者なのかを万が一にも他人に知られては、面倒なことになる。なので、戴冠式の日、彼はアズラエルやカイエ、ネメシスと共にニエベスを訪れ、ラザレスが王として人々の前をパレードする姿を眺めただけにとどめたのだった。
 本当は、そのままニエベスを立ち去るつもりが、教母ラナの目に止まってしまい、フラナガンにしばし滞在することになったりもしたのだが、彼は結局、その間もラザレスには連絡を取らなかった。また、ラナも国の建て直しに必死の甥に、何も言わなかったらしい。
 そんなわけで、ケルピムとラフティが顔を合わせるのは、三百年ぶりのこととなった。
「ええ。……お久しぶり、と言うべきでしょうか」
 ラフティはそれへ、うなずいて微笑みかける。
 その隣で、クライもわずかに目を見張った。《天使》なのだから当然とはいえ、その姿は彼の記憶にある三百年前のものそのままだ。もっとも、相手の方はこちらが、あの時フラナガンにいた画家だとは、気づいていないようだ。
「ケルピム、悪いが、上王と変わってくれないか」
 ラザレスが、ケルピムに声をかける。
「わかった」
 うなずいて、ケルピムは軽く目を閉じた。
 すぐに目を開けたものの、彼はまるで夢から覚めた人のように、軽く目をしばたたいてあたりを見回す。それから、ラフティに気づいて、目を見張った。
「クワイアス殿……?」
「マニ殿、ですね。お久しぶりです。覚えていていただいて、うれしいですよ」
 それへやわらかい微笑みと共に、ラフティは返す。そして、つと隣に立つクライをふり返った。
「彼が、誰だかわかりますか」
「え……?」
 問われてケルピム――いや、マニは、そちらへ視線を巡らせた。
 この問いには、ラザレスも怪訝な顔だ。彼は当然ながら、クライがマニの幼馴染で友人だということも、当時とはすっかり外見が変わってしまっていることも知らない。
 マニの方も、最初はそれとは、わからなかったようだ。だが、次第にその面に驚きの色が昇って来る。
「クライ……。まさか、クライなのか……」
 信じられないと言いたげな呟きに、クライは少しだけ苦いものを感じながら、うなずいた。
「そうだ。俺だ。クライ・カシアスだ」
「だが、どうして……。あれから、三百年も過ぎているんだぞ」
 呆然と呟くマニに、クライは思わず苦笑する。
「それは、おまえやラフティだって同じだろうが。……俺も《天使》持ちになったんだよ。そこにいるウリエルは、俺の《天使》だ」
 言われて初めて、マニはウリエルに目をやった。そしてそれが、自分の知らない《天使》であることに気づく。
「それじゃあ、おまえは……クラリスから失踪した後に、《天使》を得たのか……」
「ああ。まあ、それについては、いろいろあったんだ。だが、今はそれよりも、もっと他に話さないといけないことがある。だから、わざわざおまえを呼んだんだ」
 クライはいまだ驚きから脱することのできないらしい友人に、少しだけ苦く笑って告げた。実際、自分のこれまでの人生についてなど、ラザレスのような他人のいるところで、話せるものではない。それに、話すと長くなるのは本当だ。
「他に、話さないといけないこと、だと?」
 マニもようやく、怪訝そうに眉をしかめて問い返す。
 それを見やって、今度はラフティが、先程ラザレスにしたのと同じ話を語った。
「なんてこった……」
 話を聞き終えると、マニは低くうめくように呟く。
「つまり、何か。俺たちは、これまで、ただそのライラって女の復讐のための準備に巻き込まれていて、しかもその女もまた、騙され、操られていたと、そういうことなのか……」
「はい。こんな話を、すぐに受け入れろと言われても難しいかもしれません。ですが、全て事実なのです」
 ラフティはうなずくと、続けた。
「ただ、どちらにしても私たち四人だけでは、情報も戦力も少なすぎます。それで、あなたを頼ってここに来たというわけです。幸い、私はラザレスとは面識がありましたしね」
「なるほどな。それにしても……」
 ようやく驚きから覚め、話を飲み込んだマニは、軽く鼻をしわめてラフティとクライを見比べる。
「なんで二人で一緒にいるんだ? クライ、おまえが《天使》持ちになったのはわかった。だが、今は何をしてるんだ。どうして、《神の塔》で人質になってたクワイアス殿と一緒にいて、そんな話を知っている?」
 問われてクライは、少しだけためらったものの、今更隠してもしかたがないと、小さく肩をすくめて言った。
「俺も《神の塔》にいたんだよ」
「《神の塔》に、だと?」
 思わず眉をひそめるマニに、クライは続ける。
「クラリスを出た後、ウリエルを手に入れて、賞金稼ぎをしてたんだ。そこへ《神の塔》から声がかかってな。《アサシン》と呼ばれる、裏の仕事専門の工作員のようなことをしてた。だが、例のテレンス・リリシアをフラナガンから取り戻せなかったことで、塔から追われる身になって、ラフティが追って来たところへ、今回の騒ぎになったんだ」
 言って、クライは小さく苦笑した。
「ラフティが人質じゃなくなってしまえば、俺たちに戦う理由なんてないからな。それなら、一緒にライリアの女王の望みを果たそうってことになったんだ」
「……まったく、おまえたちは」
 黙って聞いていたマニは、やがて吐き捨てるように言うと、険しく顔をしかめた。
「俺だって、こんなことは言いたくないし、それぞれに事情があったんだってことは、わかる。それでもやっぱり言わずにはいられないぞ。おまえにしろ、グラディアスにしろ、よくもかつてジブリールや俺たちにあんな仕打ちをした連中の総本山に招かれて、そこでいることができるものだとな」
「おまえ、グラディアスもあそこにいると、知っているのか」
 その言葉に、クライは思わず問い返す。
「知っているとも。エテメナンキの法王の代理として声明を発表しただろうが。……もっとも、奴の名前は、別の方面からも聞いているがな」
 うなずいて、マニは小さく肩をすくめた。
「別の方面?」
 怪訝な顔で返すクライとラフティに、マニはアニエス商会会長のルゾ・アニエスとその孫のレマが、クラリスの都でグラディアスと会った話をした。
「……あっちはあっちで、俺のことやアニエス商会がやっている研究のことを知って、いろいろ思うところもあるらしいがな」
 小さく吐息をついて付け足すと、マニは改めて二人を見やる。
「そのライラって女の計画を止める件については、もちろん俺も協力しよう。俺が声をかければ、アニエス商会はもちろん、フラナガンとルーフの信者も助けてくれるはずだ」
「マニ……」
 クライが、どこかホッとしたように友人を見返した。その背を軽くどやすと、マニはようやく笑顔を見せて、クライの肩をケルピムの太い腕で巻き込み、荒っぽく抱擁する。そして言った。
「そんな顔するなよ。俺が、少しぐらい文句を言ったって、バチは当たらないはずだぞ? おまえもグラディアスも、三百年も音信不通だったんだ。しかもようやく消息が知れたと思ったら、《神の塔》なんてとこにいたって言う。俺にとったら、青天の霹靂ってもんじゃないか。なあ?」
「……それもそうか。すまなかった」
 かつてと同じ、なんの屈託もなく己の心をあけすけにさらけ出し、そうすることで自分たちの裏切りとも言える行為と虫のいい頼みを受け入れてくれようとする友に、クライはふと忘れたはずのフラナガンにいたころを思い出して、素直に謝罪の言葉を口にする。
 そのクライの背をもう一度軽く叩いて離すと、マニはラザレスをふり返った。
「彼らに、部屋を用意してやってくれ。それから、ルゾとラナに連絡を取って、今の話を教えてやれ。具体的にはまだ、何をどう動けばいいかわからんが、彼らには早いとこ、俺たちと情報を共有してもらっていた方がいいだろう」
「わかりました」
 黙って彼らのやりとりを見守っていたラザレスが、うなずく。
 それへうなずき返すと、マニはつとラフティを見やって言った。
「これは、あなたには教えておく方がいいだろうな。ライリアの首相をはじめとする政府首脳陣はみな、フラナガンへ移った。おそらく、さほど日を置かないうちに、彼らはフラナガンで動き始めるだろう」
「そうですか。……現首相はルーフの信者だと聞いていましたが、なるほど。わかりました。ありがとうございます」
 ラフティは、わずかに目を見張ったものの、すぐに納得してうなずく。
 それを見やってマニは、笑った。
「あなたは、あまり驚かないんだな。……まあいい。さて、俺はそろそろ眠るとしよう。あんまり長い時間俺が表面に出ていると、元に戻った後、ケルピムの調子が今一つ良くないみたいでな。居候はなるべく大人しくしていろということらしい」
 言って軽く目を閉じる。
 次に目を開いた時、その面に刻まれた表情は、ケルピムのものへと戻っていた。
 それを見やってラザレスは立ち上がる。
「改めて、ようこそアニエスへ、というところだな。……悪いが、しばらくはここで待っていてくれないか。すぐに部屋を用意させるよ」
 笑って言うと、ケルピムにはここにいて彼らの話し相手をするよう命じると、そのまま部屋を出て行った。
 こうしてクライとラフティ、そして彼らの《天使》たちは、アニエスの客となった。
 時に神聖暦五〇〇〇年、九の月二十日のことであった――。